帳簿の世界史(ジェイコブ?ソール著、村井章子訳)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2026.02.02

書名 「帳簿の世界史
著者 ジェイコブ?ソール(村井章子訳)
出版社 文藝春秋
出版年 2018年
請求番号 336.9/1115
Kompass書誌情報

簿記というと、「堅苦しい」、「地味」という印象を持つ人も多いと思います。なぜ、簿記を学ぶのか、何のために簿記をやるのかを曖昧なままに簿記を学び、その結果、つまらないと感じたり、挫折してしまう人が後を絶ちません。

本書は、一見地味に思える「帳簿」や「会計」という存在が、歴史をどれほど大きく動かしてきたのかを詳述し、古代から現代まで、国家の興亡を「会計責任(アカウンタビリティ)」の観点から読み解く歴史書です。単なる簿記という技術の歴史ではなく、不都合な真実を暴く帳簿がいかに権力者の運命を左右し、社会を形作ってきたかを描き出しています。

歴史の転換点となったのは、14世紀イタリアで普及した「複式簿記」です。これは責任の所在を明確にする強力なツールとなり、メディチ家はこの厳格な管理を武器に欧州の金融を支配しました 。しかし、その後継者が「金勘定は卑しい」として実務を軽視し始めると、わずか一世代で凋落しました 。フランス革命の引き金もまた簿記?会計であり、財務長官ネッケルが秘匿されていた王家の帳簿を公開したことで、王の神秘性が失われ、不適切な粉飾処理が破綻を加速させました。

日本語版の補章では、GDPの2倍を超える借金を抱える日本の現状を「歴史的な没落の法則」に照らして危ういと指摘しています。会計は単なる実務ではなく、社会の透明性を守る「道徳的基盤」であるとし、不都合な現実を直視する「会計文化」を失った社会は崩壊を免れないと述べています。

著者は、簿記?会計が歴史を左右する重要な役割を果たしてきたこと、そして、それを軽視した結果訪れた悲劇的な結末を読者に突きつけ、誠実さと高い意識を求めています。簿記?会計を専門とする人はもちろん、そうでない人も一読に値する書と言えるでしょう。

経済学部 准教授 李 焱

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